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2013年12月24日

オリンピックの身代金

そんな時代、建設現場では田舎からの出稼ぎ労働者が長時間労働
にあえぎ、ヒロポンなどに手を出して体が蝕まれていく現実もあった。
その出稼ぎ労働者を生み出す田舎は一向に暮らしが良くなるわけ
でもなく、主人公島崎の腹違いの兄も建設現場で帰らぬ人となった。

お金が無くて遺骨を取りにくることもできない義姉に代わってそれを
届けた東大生・島崎は、兄の働いていた建設現場に身を置く。そして
少し勉強ができて学校へ進むことのできた人間とそうでない者との
あまりにも違う運命、オリンピックの暗部を知ることになった。

仲間がやはり亡くなったとき、遺骨を引き取りにきた同郷の奥さんを
出迎え案内した島崎は、昼に食べたカツ丼の肉の厚みに驚き、東京
タワーからの景色を「冥土の土産」に焼き付けているその奥さんが
「東京は祝福を独り占めしているようなところがありますね」と言った
のに対し「そんなことはさせません」と言う。牛馬のように肉体労働に
残りの人生を捧げるしかないこの女性を見送りながら、不意に切なさ
がこみ上げ、叫びたい思いに囚われるのだった。僕はしばらくの間、
涙で続きを見ることができなかった。

島崎は、そこで自分がどれほどの特権を有しているかを実感し、労働
者階級に対して強烈な負い目を感じたのだった。そこから始まる
島崎の、決して「普通」の人には受け入れられないオリンピックを人質
にした身代金の請求が始まっていく。

その純粋さなのだろうか、全学連でもないノンポリ島崎を応援したい
気持ちがふつふつと湧いてきた。当時は何も分からなかったが少し
は田舎の実態も知るだけに、そう思ったのかもしれない。

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Posted by ラテルネ瀧根 at 06:45│Comments(0)
 
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