ラテルネ瀧根の登山塾

初夢を見るのは叶わなかったが、今年の具体的な課題の一つは
この春、長年の課題である谷川岳第３スラブを完登すること。
去年もチャンスが掴めず、来年こそはと思ったルートだ。

そんな事情を良く知っている「谷川の怪人」Kさんから、初夏のある
日驚くべき電話があった。

去年５月、三浦さんのエベレスト登頂のまるで日影でダウラギリに
眠った河野千鶴子さんは「谷川の怪人」Kさんの「弟子」でもあった
のだが、彼はその死をいたく悲しみ、それから数日後のその電話は、
僕に「３スラ連れてけよ」というものだった。

何を言ってるんだろうと思いながら、絶望のあまりやけっぱちになって
いるのかと思った僕は、しばらく返事もしないでいた。そもそもロープ
を結んだこともないのにどうして命を守り合えるだろう。

しかし彼の思いはそんなものではなく、追悼のためにも必死に生き
たいというギラギラしたものだった。それは彼に聞いたのではない。
「バカ」になって生きたい、そんなものを彼に勝手に感じただけだ。

丁度Kさんと知り合いの神奈川の若者２人が３スラを計画している
らしい。そんなパーティを、その上のアングルから写真に収めるのが
彼の夢なのだと言う。

現役のクライマーでもないのにそんなことを考える人はまずいない。
それが現実にいて、この俺を頼ろうとしている。何だか愉快になって
きた。そしてその夢を実現してあげるのも、と思うようになってきた。

一人で登るつもりだった３スラだが、ひょっとしたらKさんと一緒に
目指すことになるかもしれない。