ラテルネ瀧根の登山塾

名越さんの遺体は損傷が大きかったため翌日松本で荼毘に付され、
９日早朝に広島に帰った。

ＧＰＳの軌跡によると槍沢ロッジのほぼ正面、横尾尾根沿い１９９０ｍ
付近で亡くなっていた。テルモスの残量が多かったことから、尾根上
で１泊した後、行動し始めて間もなくの転落と思われる。従ってこの事
故は３１日。現場の上部はＰ４とＰ５の間であり、そんなに悪いところ
でもないことから雪庇の踏み抜きによる可能性が高いと推察される。

今、改めて名越さんを思う。広島の皆さんの話を聞くにつれ大きな存
在の人で、技術的にも第一人者であることが分かった。その人が自
分が自分であるために横尾尾根に向かい、こういう結果となった。

自分が自分らしくあるために・・・そんな自分とは一体何なんだろう。良
く分からないが僕もそうありたい。だから僕は決して名越さんを責める
ことはできないし、「よく頑張ったね」と見送ってあげたい。それは単に
「生き方」への共感だけでなく、まだ生き存えている自分にも、次に続く
可能性があるからなのかも知れない。

はっきり言えることはこの人と生きている内に会いたかった、飲みた
かったということだけだ。自分の時にそう思ってくれる誰かがいるの
だろうか、とふと思った。そしていかんいかん、俺は山では死なない。
死んじゃいかんのだ、と打ち消した。未知の世界をコントロールする
ことはできない。山に受け入れてもらうため、山に誠実に向き合うこと
しか残された者にはできない。

今回の捜索、多くの方と出会いがあった。そんな出会いを作ってくれ
た名越さん、本当にありがとうございました。