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2013年06月04日

アンナあとがき 行く者

2000年のアンナプルナに向かう直前、僕は1997年の事故を
振り返った。2ビバークの末ヘリコプターで救出された時、
救急車の中で女房がやっとの思いで言った「寒かったでしょう」
のひと言。「待つ者」のその気持ちを、死亡率9%という
この山に行くにあたって、もう一度捉え返しておきたかったのだ。

それまで一度も山登りに反対したことの無かった女房だが、
この遠征だけは「お世話係り」だとして、最初から反対していた。
「自分の登山をして欲しい」それが底辺にあった。そして
それが避けられぬと見て「登攀隊長の妻」を見事に演じてくれたのは
出発の年になってからだった。

僕が出発前の家族会議で「山での事故は自己責任」と訴えていた時、
最後に彼女がこう言った。「行く者にはもう一つ、待つ者への責任もある。
帰ってこなくてはいけない」

いつも僕の頭の中は行く事だけで一杯で、
「待つ者」へのそれについては一般論としての域を越えないものだった。
改めて思慮の足りなさを突きつけられた気がした。

小さい頃彼女は、ドッジボールをするとき必ずスカートの端を前に出し、
入りもしないボールをいつまでも待っていたという。
いつも「おいてきぼり」をくらわして、自分だけの世界を広げている自分。

ノロケではないが、遠征の度に「心配でしょう」と同情される彼女は
「適当に返事するけど、本当は待っているのが寂しいんだ」と言う。

事故、遠征といつも待たされる彼女。
僕はいつ、彼女のスカートにボールを入れてあげる事ができるのだろうか。

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Posted by ラテルネ瀧根 at 05:55│Comments(0)ヒマラヤ
 
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